ミヤジとぼくと尾崎くん

招待いただき、エレファントカシマシ復活野音ワンマンに行ってきた。
宮本さんが耳を患ったと聞いたのが、確か去年の暮れくらいのこと。
ボーカリストにとって耳を患うってことは、致命傷。
きっとその痛みの何倍も心は患う。
でもね、俺はそれこそまだ陰毛も生え揃ってない時期からエレカシを愛してるわけであって、宮本さんが軽々と復活してデカイ声で「エブリバディー!ようこそー!」と叫ぶのは当たり前!
ミヤジに任せとけばオッケー余裕!!だなんて思ってたわけ。
きっと、昨日集まってたエレカシファンのみなさんも同じ気持ちだろう。
祈りよりも早く、何回も何回もあの名盤たちに針を落としたはずだ。

化け物は病を患ったとしても、化け物。
化け物である限りは、その高さは無理だろうと思えるようなハードルも軽々と飛び越える。
ちょうど「友達がいるのさ」のAメロからサビまで一気に駆け上がって行くあの音域のように。
屋根のない野音では、歌は空を突き破っていた。

クリーフハイプの面々とずっと一緒にそのライブを見ていた。
尾崎くんとゆっくり話したのは何年ぶりだろうかって感じだった。
ライブ前はお互いピリピリしてるし、確かOTODAMAの時は彼はベロベロに酔っ払っていたし、どっかのライブ会場で会ったとしても丁寧にお互いの音源を「出来たから、聴いてよ。」ってな具合でしか話さないから、もしかしたらまともに話したのは初めてだったのかもな。

クリープハイプとの思い出は、実はたくさんあって。
2009年にTHEラブ人間が結成した時、すでに彼らは下北沢で確固とした人気を誇ってた。
Daisy barというライブハウスをホームにしてるらしいよって話を聞いて、俺たちはハイエナのように店長に「クリープハイプ」とやらせてくれ!と言いまくっていた。
何度かその場でライブをやりこんで、俺たちもお客さんを少しずつ呼べるようになった時期に初めて共演したのを覚えてる。
あれは誰かの企画だった気がする。(植木さんかな〜?そういえばダブルオーテレサ再始動するぞー!うおー!!)

そんでその日は今のクリープハイプのメンツなんだけど、まだ尾崎くん以外のメンバーはサポートメンバーだった。
俺はこの人、声高いなーいいなー、とか。
ベースの人女の子かなー、かわいいなー、とか。
にしてもこいつの歌詞聞いてると、なんだか他人事じゃないような気がするんだよなー、とか。
そんなことばかり思って実態が把握できなかった。

ライブが終わったあとも打ち上げとか一切やらなくて、お互い話したりもせずに、俺は清算を終えて、いくらかの金をライブハウスに払って、チャリに乗って、コンビニでビールを買って下北沢のアパートに帰った。

そっからもちょこちょこ〜と東京以外でもやったり、お互いフェスに出たり、なんだかおんなじフィールドでおんなじくらいの人気で、おんなじような男論を唱えながら、でも決して深く交わることもなく活動し続けた。
俺たちは一年先にメジャーデビューした。

そっから彼らがメジャーに行くまでの間、一度だけ共演した時にベロベロに酔っ払った尾崎くんに「ふざけんなよ、見てろよ。絶対負けねえ。」と言われたことがある。
俺はその頃、もう酒をやめていて、超シラフで、たしか雨も降っていて、そして一年のうちに牙も失くしていた。

だから、その言葉に対して超シカトした。
それはそれは壮大なシカト。
エベレスト並みのシカト。
ぼくには耳がありません的なツラをしたと思う。
すごく面倒臭かったのを覚えてる。
多分、その日の自分たちのライブの出来が悪かったのか、メンバーとケンカでもしてたのかなんだか覚えていないけれど、とにかく誰とも話したくなくて、一人でいたかったから、俺は彼のその言葉を無視した。

尾崎くんが言いたかったことってなんだったんだろう。
俺は多分、彼と同じくらい負けず嫌いだし、面倒くさい。
俺はどこかで勝った気にでもなってたんだってことに気づいた。
なにか成し遂げたつもりになってたんだってことに、気づいた。

俺が牙を再生し始めたころ、クリープハイプはメジャーデビュー。
そして、みなさんご存知の現在に続く。

昨日、尾崎くんの目はすごくやさしかった。
普通のエレカシ好きのバンドマンだった。
柿ピーをくれた。
お互い安っぽい黒のコンバースを履いていた。

野音は中音つくりづらいんだよー。歌いづらい。」
「ほえー、そうなんだー。」

俺は心の底から醜い気持ちが沸き起こるのを感じた。
呼応するようにステージでは宮本さんが一気にオクターブをあげた。

「絶対、お前には。お前にだけは負けたくない。」
もう何年も、誰に対しても思ってなかった、こんな気持ち。
いつだって敵は自分。
誰よりも強く、追っかけて来る自分。
そうわかっていても、俺はあいつにだけは負けたくはない。

こんな気持ちが何よりも愛おしくて、帰り道はスキップして帰れた。


K.K


今度カラオケでフリースタイル対決することになったから、お互いクラブ通いが始まりそうだ。