そしてまたオンボロのワゴンで
ぼくの生まれた街には「けっけんの森」という場所がある。
森と呼ぶにはあまりにも小さく、通学路の脇にぽつりとある不思議な森だった。
小学校の頃、けっけんの森にはミイラの墓があるらしいとか、首吊りした人が残してったロープがあるらしいとか、ありもしない噂話がひっきりなしにあったから、みんな怖がって、できる限り近寄らないようにしていた。
でも僕ら男の子3人の仲良しグループは、けっけんの森の中に秘密基地をつくった。
木の枝を組んで、どっかからサッカーゴールのネットか何かを持って来て被せて、枯葉を屋根にして。
緊急災害時用のラジオと懐中電灯、自動販売機で買ってきたエロ本を持ち寄り、買い込んで駄菓子を食いながら各々たのしんだ。
そこには「親密さ」だけがあった。
それから毎日、学校が終わったあとに秘密基地に集まった。
秘密基地にいる時だけは3人とも魔法が使えた。
3人とも勇者になれたし、国王になれた。
3人だけの国。誰もさわれもしない、気づかれてはいけない国。
あっちの世界とこっちの世界を枯葉の屋根を使ってバリアーにした。
けれど、小学校6年生になって塾に通い始めた僕は、その秘密基地になかなか行けなくなった。
ほかの2人も僕が行かないなら、と行かなくなった。
そして、みんなが静かに忘れていった頃、僕たちは小学校を卒業して、会わなくなった。
そんなことを思い出した。
5人で演奏した最後の日。
12/23の下北沢Cave Be。
この5人はTHEラブ人間という音楽を使って、誰か(それはオーディエンスのことだと思う。)と執拗までに繋がろうとしていた。
他人ヅラさせてたまるか、ともがき続けていた。
でもその反面、誰にもわかってたまるかと思っていたのかもしれない。
この5人の、この5人による、この5人のための世界で、ずうっと遊んでいたかったのかもしれない。
誰も触れない5人だけの国。
あっちの世界とこっちの世界をTHEラブ人間の音楽を使ってバリアーにした。
朝までメンバー5人揃って打ち上げに残ったのは、もう何年もなかった。
昔みたいな一気飲みも、罰ゲームも、どんちゃん騒ぎもなくなった。
朝方、始発が出る時間が来て、ツネと谷崎とケンジはもう一軒行ったのかな?
僕はえみと小田急線に乗って、帰った。
あまりにもいつも通りの、なんにも変わらない、また明日スタジオに来るんじゃないかな、って感じ過ぎたから、代々木上原でえみが降りる時、ばいばーいと言った。
いつもとおんなじ感じで言えた。
えみもいつもとおんなじ感じで、ばいばーいと言った。
でも、小さな声で付け加えるように、サンキューとえみは言った。
小田急線で、新宿まで。
新宿から山手線で、池袋まで。
池袋から私鉄に乗り換えて、家まで帰った。
ずうっと泣いていた。
僕や、僕らや、えみがハッピーでありますように。
K.K
【今日の新曲】
「そしてまたオンボロのワゴンで」
俺たちがなんとなく撮った
あの一枚の写真が
いつの日かTシャツの柄になるでしょう
その頃にはまだ誰も死なないで
たまにでいいからまた集まろう
楽器も持ち寄らずカレーを食べよう
そしてまたオンボロのワゴンで
遠い街に出掛けよう
俺たちがなんとなく録った
あの一枚のレコード
いつの日かガキ共が夢中になるでしょう
その頃にはまだ誰も死なないで
うまい言葉探さず ハッピーになろう
メロディーはそこらへんにやっぱりまだ落ちてる
ぼくたちのオンボロのワゴンは
きっとまたうまくステップを踏むでしょう
そしてまたオンボロのワゴンで
遠い街に出掛けよう