ぼくの朗読

昨夜は名古屋でソロライブ。
つい一週間ほど前にツアーファイナルをこの街で終えたばかり。
すぐまたこの街で歌えたことを、嬉しく思うよ。
出逢えたあなたに心から、ありがとう。
また落ち合おうね。

MID FM相羽さんは変な人だから、好きだ。
なんか変だ。
くにゃっとして、ふにゃっとしてる。
失礼かもしれないけど、動物のような女の人だ。
誘ってくれてありがとう。


鶴舞のK.Dハポンという場所で演奏したんだけど、リハーサルでギターを弾いた瞬間、この場所に惚れてしまった。
木と木がぶつかり合う音は、「おはよう」や「おやすみ」によく似ている。
何時間でも誰かがもう飽きてしまっても、ここで誰かに殺されるまで歌っていたくなる。

だからぼくは愛しい人の指先を丁寧になぞるように、歌いたい。
もっとひとりっきりの宇宙の中で、大爆発を起こしたい。
もっともっと様々なものと断絶することで、空間を破壊したい。


【セットリスト】
1・砂男
2・結婚しよう
3・フォーエバーヤング(新曲)
4・犬の人生
5・大人と子供(真冬のテーマ)
6・バンドをやめた友達


名古屋名物コンパルのエビフライサンドとホットコーヒー。
いつかラジオ出演のために名古屋に来た時に、レコード会社の人達がぼくのために用意してくれていたのを思い出す。
ブルーススプリングスティーンテレキャスターを持つように、名古屋に来たらコンパルのエビフライサンドは絶対不可欠なのだ。

店舗に来たのは初めてなんだけど、ホットコーヒーもすごく美味しい。
微妙な酸味がぼくをどこまでも夏の果てまで溶かせてしまう。
ミルクは入れない方がいい。

今日は何の予定もないので、名古屋でぼおっとしてるのも悪くないかもしれない。
知らない街にひとりぼっちで、その街を知る。か。
いや、この街はぼくにはあまりにも巨大すぎるよな。


K.K



【今日の新曲】


「ぼくの朗読」

名古屋に向かう新幹線の中。
バンドの車で5時間以上かけて向かうのとは違い1時間半で着いてしまうのに、新幹線の方が手持ち無沙汰になるのは周りにいる人たちが見知らぬ人たちだからだろうか。

だから、ぼくはだいたい新幹線では聞き耳を立てながら流れる風景をただずうっと見ていることが多い。

今日は二列シートの通路側になってしまったから、風景が見れない。
見ようとするとぼくの隣のおじさんが、隣の若者に凝視されてる気分になるだろうから。(あ。窓閉めやがった。)

ぼくの左側の三列は、くるりとシートを後ろ向きに変えた6人組の家族。
30半ばくらいの夫妻と、その父母。
そして四歳くらいの男の子と、二歳くらいの女の子もいる。
お母さんはその二歳くらいの女の子がいかに頭がいいコなのかについて熱弁している。
みんながみんな、「うむうむ。そのとおり。」とうなづき肯定しているその姿はとっても滑稽だ。
けれど、家族にとってはそれがすべてで、それが真実だ。
諸君、聞いてくれたまえ。我々の娘は頭が良い。
that's all.

飽きてきたから、PINK FLOYDの原子心母を聴こうと思った(このレコードは新幹線や、飛行機や、車の中で聞くのにもっともうってつけのレコードなんだ。この話は長くなるからまた今度。)そんな矢先に気づいたのはみんな喪服を着ているということ。
東京発のこの新幹線。新大阪行き。
名古屋か京都か大阪で、きっとどちら方かの祖父母の通夜だろう。

二歳の女の子が、新幹線新大阪行き14号車の中を笑いながら走り回っている。
妹ばかりを褒める家族にイライラしていた、4歳くらいの男の子も「こらー!」なんて言いながら一緒になって走り回ってる。

ぼうや。
きみの家族の誰かが死んだんだね。
おじょうちゃん。
きみの家族の誰かが死んだよ。
きっと通夜が始まっても、何が起こってるかわからないだろう。
退屈だし、静かだし、早く帰りたいなあなんて思うだろう。
きみたちがみんなを楽しませようと、わー!と声をあげたり、はしゃいだりしたら、誰かがきみたちを怒るだろう。
納得いかなくて、きみたちはきっとふてくされるだろう。

でもぼうや。
その日を忘れないで。
でもおじょうちゃん。
その日を失くさないで。

きっと大人になっても思い出せないような一日だけれど、その一日は記憶の外にあるきみの記憶の最も大切な一日だよ。

PINK FLOYDの原子心母。
いつかきみにも聞かせたいなあ。