やさしくて、ひどくかなしい


ENORMOUS CHANGES AT THE LAST MINUTE.
最後の瞬間のすごく大きな変化。

これはグレイス・ペイリーの短編集の名前なんだけど
昨日の福岡、今日の高松とまったく同じ感覚に陥ったのが、ラストの曲の最後の一言を歌い終えた瞬間でした。

ツーマンライブってのは面白いもんで、ある種それは戦いであり、食い合いであり、やり合いであったりする。
特にそれが今までほとんど交流を持たないバンド同士だったりすると、なお色濃く強く表れる。

福岡はカラーボトル
高松はザ50回転ズ
どちらもベクトルは違えど、戦うにはぴったりの相手だった。

聞き馴染みのない楽曲を物凄くデカイ声で歌ってる男を目の前にして、だいたいの人がはじめは訝しげだ。
自分の手入れした庭に汚れた靴で侵入してくる下手な泥棒。
自分が大切に守ってきたテリトリーにドカドカと土足で入り、ナイフで襲い掛かる。
それが俺達であり、俺達の仕事だ。

徐々にそのナイフは固い皮膚を突き破り、肉をえぐる。
血管を探り当て、ねじり、噴射する真っ赤な血。
生きていることを誇示するような、真っ赤な血。
その血を俺は見たい。

そして、冒頭に書いたように福岡と高松の夜。
その血のあたたかさに気づいたのは最後の瞬間だった。
音が止んだ瞬間、目を開けると広がるのは戦の終わり。
あの訝しげた顔は、泣き面や笑顔に変わる。
最後の瞬間のすごく大きな変化。

これが見たいんだ、俺は。
本当に来てくれてありがとう。

ツアー【泣きながら踊れる夜はあるかい?】の2ターム目が終了。
つぎは6月頭の高崎からスタート。
完全に耳も喉も筋肉も精魂も使い切ったので、まったく力が入らない。
指先一本しか動かせない。
ここまでやれた。
ここまでやりきれた。
だから本当はここで音楽をやめてもいい。
でも、やっぱりやめれねえ。
まだできるし、まだやれる。

スリーコードを覚えることで見つけた、夢の背丈がどんどん成長してる。
高すぎて高すぎて見えない。

登ったら気持ち良いだろうな。

K.K


【今日の新曲】

「やさしくて、ひどくかなしい」

起き抜けに布団で寝ぼけた顔して
悲しみの数を数えてみたりして
208個目でそれをやめにした
今日の風の音が邪魔をしていた

買い貯めたレコード端から聞いてる
きみが好きそうな歌なんてないから
好きになりそうな歌をつくろうか
邪魔な風の音に敬礼をしながら

楽しそうな顔をして
きみはぼくにいつもやさしい
悲しそうな顔ばかりしてる
ぼくはきみにやさしくなりたいな

ぼくのことなんて全部見透かして
わかってくれる人ばかりだ
それはとっても辛いってこと
それは酷くて泣きたくなるよ

本を読んでたら全部なくしてた
それなのにいつも本ばかり読んだ
誰かのために死んじゃうよ
きっと誰かのために死ねちゃえるかもよ

楽しそうな顔をして
きみはぼくにいつもやさしい
悲しそうな顔ばかりしてる
ぼくはきみにやさしくなりたい