ふたつの。

必死こいてたら、もう年末。
明後日は2013年なんだって。未来だ、これはもう。

この日記は切り取らなくてもいいような日常まで丹念に綴っているから、いちいち振り返って「何月はああだ、何月はこうだ」なんてのは必要ないのです。
よかったら今年の頭から日記を読み返してみてください。

あいもかわらずぼくの毎日は(それは同時に、勝手だけどきみの毎日でもある。)糞みたいに平坦で、つまらなくて、退屈だろう。
この日記のタイトルはそんなぼくらの美しくもなんともない日常を冠している。
でも、何故かその退屈がたまらなく愛おしくなってしまう。



映画「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」の中でジェーン・バーキンが履いてる白いスニーカーは、泥にまみれて、汚れてしまった。
でも、何故かその汚れてしまった純粋さは目も当てられないほど美しい。



大きな出来事が何個かだけ、ある。

・1stフルアルバム「恋に似ている」の発売

THEラブ人間の3年間と、ぼくの13年間でできることををすべてつぎ込んだアルバムだった。と、思う。
正直、もうあんまり覚えていない。
レコードの制作は2011年のことだったから、遠い昔のことのようだ。

覚えているのは全国のツアー先でのこと。
ほとんどの場所を共に廻ったオワリカラとのジャンプ漫画のようなライバル関係と友情の夜を筆頭に、何箇所かサポートしてもらったセカイイチ音速ライン黒猫チェルシーとの夜も忘れられない。
あんな美しい流れがこの世に存在してるのは音楽の奇跡だと思う。

そして、オーディエンスたち。
特に長野JUNK BOXでの感動は、今でもぼくの背中を後押ししてくれる。
二回目の長野のライブとは思えない、興奮の坩堝。
そのギラついた目と、硬く握った拳を前に、一音一音、愛を込めて演奏して、一語一語、丁寧に歌った。


・祖父の死と、兄の結婚

9月の終わりの新宿LOFTでのライブを終え、恋人や仲間たちと乾杯をして笑い合っていた頃、祖父が亡くなった。

今年の頭に祖父は体調を崩して、ぼくはろくに家に帰れもしないが、出来るだけ近くにいようと実家に戻っていた。
結局、それも自分への言い訳のためだったのかもしれないがぼくはそう選択をした。
少しでも話を聞いておかなきゃならなかった。
生まれる前のことや、生まれてからのこと。
どんな時代を、どう生きたかってこと。
でも、結局照れ臭くてなにも聞けやしなかった。

死に際は誰も気づかないように、眠るようだったらしい。
母と祖母はおやすみと、言った。そしたら、そのまんま亡くなってしまった。
今でも祖父の仏壇の顔を見ると、まだ眠っているだけのような気がしてならない。
すくっと起きて、「お母さん!酒持ってきてくれー!」とあったかいレモンハイをねだりだすような、そんな気がしてならないのだ。

その数日後に兄は結婚した。
祖父は兄の晴れ姿に間に合わなかったけど、ちゃんとそこにいた。
きっと誰も信じてくれないだろうけど、祖母の隣の席に座っているのを俺は見た。

天気は快晴。
この日和は世界一の晴れ男である祖父からの贈り物だったんだと思う。

俺は愛が生まれる瞬間を見た。
恋を密やかに、丁寧に育み続けたふたりの愛が生まれる瞬間は、人と人が織り成す最も美しい瞬間だ。
そこには祝福以外のどんなものも邪魔できやしない。

結婚式の間、ずっと祖父のことを考えていた。
きっと泣かなかったろう。
いや、泣くのかも。
ね。ほら、俺は祖父のこと全然知らないんだ。

それでも、想い出が心を洗ってくれる。
後悔を引きずり続ける必要なんてひとつもない。
得もないし、役にも立たない。
そんなものは犬に食わせてしまうのだ。

想い出はどんなものよりも、おおらかに俺を、きみを抱きしめてくれる。
それは振り返った場所に美しく輝いている。
さんさんと、きらきらと。
それは通り過ぎた場所に堂々と立ちはだかっている。
悠々と、自由に。

そして、今年俺は恋に落ちて、またそんなことを思う。
想い出は俺を美しく見せてくれるけど、見せてくれるだけで、もうそんなものはどこにもないってことを。

恋はいつも、悲しくて、辛くて、孤独だ。
あの時も、そうだったってこと、忘れてしまうことがある。
けれど、恋はいつも、わがままで、酷く手痛くて、儚い。
なら俺は祖父のように、兄のようにその苦しみを抱きしめて、傷だらけで生きていくんだ。
これは、想い出じゃない。教訓だ。

地図がない人生を生きていくのだから迷うことばかりだけれど、やはりそれは美しいと思う。
俺はこの人生の唯一の主役であることを誇りに思う。

明日、大晦日、全7本のライブにすべてを懸けて演奏します。
残りカスひとつ残らない歌をうたうのが、きっと歌手としての俺がもらった唯一の役割だ。

そして、愛する人に「ごめんね。」と言い合えることが、「ありがとう。」と言い合えることが、照れ臭くも人間として生きている証だって、今日わかった。

2012年のことを忘れないと思う。
やさしさをありがとう。
また。

K.K


【今日の新曲】

「鍵は開けてやる」

ベイビー
今日の日がはじまろうとしているよ
きみより早く起きたぼくの今日はもうはじまったよ
テレビも歯ブラシも台所の今日もまだはじまってないから
きみが起きたらいつものようにはじめてあげるんだよ

もうすぐいつものように目覚まし時計が鳴る
きみは三回目の呼び鈴で飛び起きることになる
もしかしたら夢の中できみの今日ははじまっているのかも
そんなこと想像してぼくの今日ははじまったよ

鍵はぼくが開けてやる

ベイビー
きみの悲しみはきみにしか似合わないよ
きみよりきみの抱えた悩みを悩める人なんていないし
そして最悪なきみの今日もきみにしか味わうことができない
きみだけのビールの泡で弾けて溶かすことができる

それでもぼくは陳腐な言葉とつまらない冗談なんかで
お茶を濁すようにきみの手を握ってる
ぼくはぼくの一日に色をつけてやる
きみの悲しみはぼくが幸せに変えてやる

鍵はぼくが開けてやる