うたはいらない

八月です。
気づいたら、たくさんたくさん日焼けをしました。
首と腕がヒリヒリしてる。

一年の始まり正月でも、始まりの季節四月でもなく、灼熱の八月になるとぼくは立ち返るような気持ちになります。
覚えてもいない最も古い過去。
そう、ぼくは八月生まれなのです。


先日、箱根へ。
たくさんの乗り物、登山電車/バス/ケーブルカー/ロープウェイ/海賊船。
そして、たくさんの景色、人、飯にうずくまった。
身軽に黙々と歩きたかったから、できるだけ鞄の中身を少なくして、歌は家に置いてきた。

箱根をぐるっとひとまわりして、旅館の露天風呂にざぶっと浸かって、ぼおっと考えた。

26年生きてきて、その中の13年歌ってきた。
いつの間にか人生の半分を歌と共に歩いてきた。
この13年でつくった歌のこと思い出した。
どれだけのこだわりとさようならをして、新しいこだわりと出逢ってきたか。
どれだけの奴らがバンドをやめて、あいつとあいつといままだ歌い合っているか。

どうだろう。
歌わなかったら、どんな職業についたかな。
歌わなかったら、どんな恋をしたのかな。
歌わなかったら、ぼくはぼくを好きでいれたかな。
歌わなかったら、歌わなかったら、歌わなかったら。

引き出しに置いてきたつもりだった歌が、湯船に浮かんでいた。
歌はもうとっくの昔に持ち物なんかじゃなくなっていた。

旅館で飯を食って、布団に入った。
月がまん丸で綺麗だった。
部屋は広くて、手持ち無沙汰だった。
ここにいることを奇跡だと、思えなかった。
いままでのこと、また思い出してた。
いま、ここで自分がこんな人間でいることがうれしくて、泣けてきた。

うれしくて泣いたのは、はじめてかもしれない。




ROCK IN JAPAN FESTIVALでは愛について考えていた。
行きの車で。
ステージ裏で。
ステージの上で。
ステージを降りて。

びっちびちに詰まったWING TENT。
華やいだ乙女たち。
汗まみれの男たち。
俺たちを観に、集まってくれてありがとう。

それと同時にあの場所は恋人との起きぬけの会話であり。
真夜中に壊れたサンダルで買いに行く、ビールと珈琲であり。
闇夜を照らす街頭なき道を誰かと歩くことなのです。
夏が来るよ。



今夜は三輪二郎バンドの演奏を観に行き、帰りに渋谷オーディトリウムで開催中の濱口竜介レトロスペクティヴ【PASSION】を観てから帰ってる。

俺は、26歳、歌手。
まだまだやれるとこまで、やれそうだ。


K.K


【今日の新曲】

「くこの花」

この街には来たこともないから
地図を広げて歩いてみたんだ
誰のためのウォーク?
全部言い訳だよ
冬はまだまだ終わらない

冷たい風は肌で感じるなよ
熱く煮立った内臓で感じるんだよ
誰のためのラン?
この毎日は?
暮らしと営みの幹線道路

自分が自分のままでいるためには
誰かとの摩擦やいがみあいもしょうがないよね
バイバイ

忘れたほうがいいね
お互いまあまあうまくやっていけるから
ひとりぼっちが嫌いでも
お互いまあまあうまくやっていけるから

どんな匂い?
どんな色?
鉢植えに似合うかな?

忘れたほうがいいね
お互いまあまあうまくやっていけるから
ひとりぼっちが嫌いでも
お互いまあまあうまくやっていけるから