できるだけ注意深くならねばならない、いくつかのこと

たくさんのバンドのたくさんの演奏を見た。
二月後半。
クッソくだらないものもあったけど、そのくだらなさったらなかった。
ぼくはくだらなくて、笑えてしまうようなものに対しての物の見方が変わったような気がする。
昔だったら唾を吐いていた。
でも今はその唾を飲み込む。
そんでそれが「固唾」だってことに気づく。



2/19
どうしてもsalsaが見たくてしょうがない日ってのがこの世にはあって、それがこの日。
なんとまあタイミングが合ったのか、それとも彼等がライブをやりすぎているのかは置いておいて渋谷LUSHに向かう。
中に入るとフロアはほぼガラガラ。
salsaは一番手。
まばらに介在するオーディエンスはだれひとり酔っ払っていない。
音楽を聴くには丁度良い状況。
そして、音楽を鳴らすにはあるひとしおの緊張が生じる状況。

こういう時に実力を、誇示するのがsalsaなのです。
彼らの音楽は、ひとりひとりの体内にねじ込まれ、痺れさせ、感覚が麻痺する。
脳震盪。

新曲ゾンビも素晴らしかったけど、何よりもストレートスタンドに変え、「宮益坂ベイベー!」と叫ぶスズケン氏のどっからどう見ても先日見たギターウルフセイジ氏に影響受けたろーっていう、姿がめちゃんこよかった。

あの人いつまでも有能なロックキッズなんだよなあ。
有能なロックキッズは受けた影響を飲み込んで、咀嚼するのを得意とする。

ちょいっとsalsaメンツと、先日ぐちゃぐちゃになったベルノバヤスエと話して下北沢へ。

QUEでおとぎ話×セカイイチのツーマンライブ。
この日のおとぎ話は、もうだっるだるってくらい緩かった。
ぱっきりする瞬間を自分たちから阻止するように、ぐっと両手を前に差し出して「NO!」と言っているような。

終わったあとおとぎ話メンバーとがっつり話す。
主に俺ばっかり喋ってたけど、勝手に色んなこと手に入れて帰れた。

家に帰って死ぬほどギター弾いた。
俺もひとりの有能なロックキッズなのだ。


2/20

二年ほど前に買って、ボロボロになっていたテレキャスターを病院に送り込む。
まったく同じ物が買える値段が治療費に掛かると言われたが、そのまんまでお願いした。
ニ年前買った時には知らなかった彼の側面をぼくは受け入れていたし、彼もぼくの大体すべてを受け入れてくれていた。
退屈な若者たちのためのツアーで、彼とぼくは親友になったのだ。
ワンマンまでには戻ってくる。
俺と岡本太郎の情熱がすべてあいつには注入されている。

そして、いくつかの街のいくつかの楽器屋で、いくつかのアナログディレイを試奏してひとつのアナログディレイを購入する。

ずっと違和感のあったギターサウンドを一から改善していく。
アンプの音量、イコライザー、足元のつまみひとつひとつ。
それはプレイも一緒。

新しく購入したアナログディレイを手にひとりスタジオへ。
ぐっちゃんぐっちゃんに弾き散らす。

そうなのです、ぼくは有能なロックキッズなのです。

帰り道はレッドツェッペリンを聴いて帰る。

夜、発熱した。


2/21

家で完全ダウン。
眠りこける。
起きてる間は本を読む。

夕方近くに病院に行き、診察、薬をもらう。
子供と老人と水槽の金魚と看護婦。
血圧計と体重計とスリッパと雑誌。

少しだけ、本を読みたかったのでスターバックスコーヒーに
寄る。

帰り道、小学校の時の友人を見かける。
金髪で、前髪が目にかかって、黒いレザージャケットに、いかにも人為的に行いましたと言わんばかりのダメージジーンズを履いていた。

母に聞くと彼はバンドをやってるらしい。
どんな歌なんだろう。

布団に入り、本を読んで眠る。

はやくなおさなきゃ。


2/22

熱は下がった。
それでも体だけは言うことを聞いてくれない。
薬で無理矢理、体を起こしMARZへ。
ひらくドアの活動再開ライブ。

我々のサウンドクルーを務めてくれてる鈴木氏がベースを弾くあすなろうも見れた。
なんだかいつもステージの脇でサポートしてくれている彼が、意気揚々と音楽を鳴らしてる姿が胸にきた。
熱のせいかもしれないが、かっこよくみえた。

THE MASHIKOのボーカルが使ってるギターが良かった。
欲しい。

ひらくドアは男前なサウンドになっていた。
男のドラマーになったからってわけではなく、タカユキが肉体的になっていた。

いつも思うのは、心からはなれた場所で歌を歌えたらなあ。ってこと。
頭、や、心ではなく、体で音楽が出来たらいい。

この日のタカユキカトーはとても肉体的に、体そのままの歌を歌っていた気がする。
それは彼がひらくドアストップ中に行っていた、
弾き語りメインでの生活がつくったものなんだろう。

ぼくにそれが出来ているか。
3/2の名古屋が楽しみ。


2/23

スタジオ練習。
まだ頭がぼやっとしている。
体も重く、ずうっと夜がそばにいるような気分だ。

スタジオ後、飯を食う。

ケンジと谷崎と三人で、改めてスタジオへ。
ほぼ遊びみたいなことをしていた。
くだらないお遊びからなにか弾け飛び出してくればいいのだが。

途中、谷崎が抜けてケンジとふたり。
何曲かの新曲を目の前でプレイする。
ケンジが音に乗っかる、と、その曲はもう少しだけ奥行きを得る。

この奥行きが大切だ。

西調布駅の改札横のエスカレーターに工事中の張り紙が貼られているか。
その新幹線の何号車両目にいるか。
四種類の焼きたてパンはそれぞれ何味なのか。

その奥行きを、あとの三人が入った状態で保てればいい、な。
瑞々しさと、濃度、奥行き。
これはすぐに、枯れ、薄まり、浅くなっていく。
人が多く介在すればするほど、薄まる。
タフになっていかなきゃならないな。

夜になってmotionに行く。
SNEEZEのメンバーはなんとも素晴らしい。
奥行きをどこまでもどこまでも広げて行く。
渋木のうたが俺は大好きだ。

家に帰り、水をコップ一杯飲んで、寝る。


2/24

スタジオ練習。
胸の高鳴りが異常。
薬でも抑えられない。

でも今夜はeastern youthのライブなのでしょうがない。

クアトロに行き、ロッカーに服と荷物を詰める。

先行、BRAHMAN
1995年の結成から17年。
やっと極東最前線に出れた、と言っていた。

ふさわしいんだな、と思えた。
この夜に彼らはふさわしい。
彼らは当たり前だけど、自分の生の最前線にどしんと突っ立っていた。

17年かかったんだ、俺たちはほんとまだまだ、だな。

そして、後半eastern youth


書け過ぎてただの一ファンになっちまう!!
ので、多くは語らんということで。

別格!!!!

熱狂の中、家に帰る。
今朝方まで体中を重くしていた、気だるさはなくなっていた。
毒素は抜けた。

つもりだっただけ。
振り返ると、やっぱり自分の中にある歪な形をした心臓に気づく。
その場所にかつては存在した「失われた何か」について考える。

それはとても柔なもので、いつのまにか損なわれていた。
気づいた頃には、そっと。
まるで普通な顔して、「わたしはあなたが生まれた頃からこの形だったのよ。」と聞こえるように。

でも損なったのは自分だ。
自分で自分の、そこにあったはずの柔なものを奪い去ったのだ。

だからこそ、ぼくは幸せになろう。
しかも、誰も成し遂げてないほどの幸せに。

もう目が悪くなるまで、ゲームはやらないんだ。


2/25

渋谷ファミリア開店記念パーティーに行く。
催し物はレコーディング。
なんとファミリアにゆかりのある音楽家を呼んで「カントリーロード」を歌うというもの。

ぼくも張り切って歌いました。
英語は苦手なので歌詞書き下ろした。

以下、金田作詞のカントリーロード(Aメロとサビのみ)

■Aメロ■
孤独は海
孤独は花
干上がって枯れていく
夜は鳥
羽の失い
ふるさとの川の端

■サビ■
名前をつけて
美しい名前を
好きな人に呼んでもらいたくなるような名前を


レコーディング後にはUFO CLUBへ。
大好きなイベント中央線ラプソディ。
忘れらんねえよ/フジロッ久(仮)/オシリペンペンズのスリーマン。

この日はすごく特別で、個人的にとても関わりたかった一日。
果たせなかった分、お客さんとして死ぬほど楽しもうと思って、行った。

フジロッ久(仮)のライブ中、興奮が絶頂に達した瞬間ダイブした。
その中空で感じた、見えた光のようなものはうまく説明がつかないものだった。

前兆のようなものであり、予感のようなものだった。

今の音楽シーンは(昔がどんなものだったかは知らないが)淀んで濁った目と、同じくらいどんよりとした心を持った、金と権力のみが世界を回していると信じて疑わない連中が牛耳っている。

その状況をひっくり返す、未来への音楽を鳴らさなければならない。
輝かしい目を持った奴らだけで。

誰がなんと言おうと、俺はこれからも音楽を鳴らすことに胸を張っていたい。
自分の人生だもの、ね。


2/26

病院に行く。
すると、メンバーから連絡が。
どうやらスタジオを飛ばしてしまった模様。
自分のスケジュール管理能力のなさにほとほと呆れる。
俺がメンバーの立場だったらと考えると、ぞっとする。
俺はその時なんて言っただろうか。

夜は新宿LOFTへ。
曽我部恵一、笹口騒音ハーモニカ、曽我部恵一BAND太平洋不知火楽団の4マンライブへ。

これだけで狂ったイベントである。

が、とにかく曽我部恵一に驚かされた。
なんつうか、説明がうまくつけられないのだが、目の前でビートルズや、ストーンズや、ツェッペリンや、フーや、ニールヤングが演奏していたらこんな気持ちにさせられるんだろうなあって。

彼は半径1メートル以内の物事を歌う、ロックレジェンドなんだと思う。

曽我部恵一曽我部恵一の殻を毎秒壊し続けている。
手の施しようがない。

つい二ヶ月前にタイバンしていることに、震える。


深夜はTHREEへ。
撃鉄、SUNN、ジョンズ、快速東京などなど知り合いのバンドマンだらけ。

ツネへ謝罪のテキーラ
死ぬほど呑む。
ほぼ覚えていない。

あとから誰かに言われたことは、けんじに対して恥ずかしいことを言ったこと。

それから何日か経つがまともに顔見て話せない。
いやだ、いやだ。
良いドラマーだなんて思ってないから!!!


2/27

二日酔いで夕方起きる。
いろんなことを整理する。(主にどうやって帰ったかについて)

そのままMARZへ。
The Quandata活動休止ラストライブ。

イベントはもちろんNew Action!
俺たちの麗しき日々。

中に入ると知った顔の面々が。
でも長い間会っていなかったあいつらや、あいつらや、あいつら。
三年前にはほぼ毎日顔を合わせていたあいつら。
2009年の下北沢に、タイムスリップしたみたいな気分。



いつも通りスベる石橋がいて、デコボコの道を走ってきた彼らを支えてきてくれたサポートのみんながいて、しかもそこにジョンが戻って来た。

来れなかったけど、どこかにはゆうとがいて、ひらさわさんがいる。

居なかったのは、ふうたろうだけ。

ふうたろう。
俺はずっとお前を待ってるんだよ。
お前が本当の本当に爆発する瞬間を。

最後、アンコールもなく、いつも通りコミュニケーションで終わる。
ステージの上にはたくさんの人が乗り込んで、ぐちゃぐちゃ。

その姿はとってもとっても美しくて、ずうっとこんな日々が続けばなあって思った。
それは2009年に感じていた、あの頃の感覚だ。
下北沢の地下一階のライブハウスCave Be。
あそこに、なぜか集まって、夢ばかり語っていた連中。

ふうたろうがいないから、俺はステージには上がれなかった。


2/28
スタジオ練習。
その後、お気に入りの喫茶店へ。
だが、無茶苦茶おいしいはずの珈琲がすごーくまずかった。
がっくりして、ぶーふーうでお口直し。

そこから何時間も本を読んでいた。

asiaでMOROHAを観に行く。
這いつくばっている姿が、闘う姿がとても似合うふたりだ。

この日も、自分自身との格闘に打ち勝とうともがいていた。

アフロと帰り際、一緒に渋谷の街を歩く。
死んだ奴のことを話す。
友人というにはあまり多くを知らないラッパーのあいつのこと。

死んでしまったらもう作品の中でしか、彼のことを知ることができない。
まだ、まだ早い。
生きることの選択を、何度も何度も毎日毎日、選び続けなければならない。


2/29

昨夜から朝方まで雪が降っていたため、起きると残った雪が頑丈に道をコーティングしていた。

電車は運休していたりして、なんだかやっぱり雪は特別なものなんだなあと感じる。
ある一日と、ある世界なんて、自然の手にかかれば簡単に色を変えてしまうんだ。

三茶ファミリアに機材を降ろし、GARDENへ。

未完成VS新世界は物凄くパワフルなライブだった。
なによりもギターカイトウくんと、ボーカルサワダくんがとてつもなく、楽しそうだった。

あの人たちは札幌から東京へ出てきた人達だ。
雪の中で暮らすっていうのはどんな気分なんだろうか。

トリの井乃頭蓄音団は笑えた。
ヒロヒサのギターかっちょよかった!!


3/1

朝方、バスに乗り名古屋へ。
高速バスはとても好きな乗り物の一つ。
車として、僕にはくくれない。

遠足や林間学校のような、多人数でひとつの乗り物に乗り込む感覚は相変わらずわくわくする。
しかも、隣は他人だ。

川端康成の「雪国」を読む。
温泉町で芸者の女と出逢い、その女に心を惹かれながらも、それ以上の繋がりを持とうとはしない、とても澄んだ冷たい心を持った男の話。

ぼくは読む度にこの男に強く共鳴してしまう。
心の居場所とは、ひとりで居続ける以外に存在するのか。

眠くなるまで本を読むのがとても好きだ。
文字は目で追えているのだが、文章そのものの内容が頭に入ってこなくなる、あの感覚。

くらっとするころに本を閉じ、目を瞑る。
カーテンの隙間から富士山が見えた。

名古屋に着き、栄へ。
PARCOの方をぶらつき、新栄町で飯を食う。
海老フライ定食。

その後、ホテルにチェックインして池下へ。
今夜は撃鉄がUP SETでライブ。
前も札幌に前乗りした際に、撃鉄がいた。
彼らは重要な時にいつも、いる。

リハーサルを見学させてもらったのだが、とても勉強になった。
明日は同じステージで俺たちが演奏する。

そのまま歩いて、今池へ。
音楽喫茶(Barかな?)「あらたると」へ。

THEラブ人間のオーディエンスであるMちゃんという女子が写真展をそこで開催していて、しかもこの日はおとぎ話有馬氏の弾き語りワンマンライブイベント。

中に入ると、とてもあたたかい空間で壁にはMちゃんの撮ったおとぎ話のライブ写真と、ちひろさんという方が書いたおとぎ話の絵が。
そこで有馬和樹が歌うのだ。
こんなに、わかりやすく愛に溢れた空間は他にはなかなか見れない。

有馬くん特有の時間の流れ方が演奏中の二時間近くの間ずぅっと流れていて、眠気を誘う柔らかさではなく、心地の良いものだった。
一秒も忘れられない。

飛び入りで一曲、FUCK OUR DAYSを歌わせていただき、ビラも配らせてもらう。
今日来た人達、明日みんな来たらいいなあ。


終わったあとはアイリーンという絵描きの女性と話す。
とても面白い方だった。
絵をデータであるけれど、見せてもらったが背筋が凍るような素晴らしい絵だった。

そこに人はいるが、そこに人はいない。
そこに人はいないが、そこに人はいる。
ただ湿度だけが、そこにあるような絵だった。
興味深い。

新栄町まで戻り、ひとりで王将でラーメンと炒飯を食う。


やる気のない店員と、やる気はあるが空回りの店員と、やる気まみれの店員、三人で店を回している。

俺は、なんで、歌うのだろう。
わからない。
なんで、こんなに、何年も歌に執着しているんだろう、か。

「好きだから。」
なんて理由にはならない。
少なくとも僕には。

歌う理由を見つけようと思う。
どれだけ時間がかかっても。
理由を知る必要がある気がしている。
それは心臓から失われてしまった、あの柔なものを取り返す事に繋がるかもしれないし、見当違いかもしれない。

でも、ぼこぼこと水泡のように歌ができる。
歩いて、呼吸をして、誰かと出逢う限り、どうやら歌はできつづける。

立ち止まって、後ろを振り向いて、最後の一小節を歌い切るにはまだ早すぎる。

よくわからないけど、そんな気がしている。

明日は名古屋。
明後日は大阪。
11日は渋谷でワンマンライブ。



K.K