KYOTOKYO

京都メトロは地下鉄の階段を上り、地上に辿り着く一歩手前にある。

みんなは知っているだろうか?
社会を猛然と生きる中で時々エアポケットのように存在するある種の【異空間】というものを。

それはテストの点数が悪くて頭を下げて帰る通学路に、ちいさく咲く花だったり。
恋人と別れた日の夜、タイミング良くかかってくる親友からの電話だったり。

心がふわり、浮くような。
そんな空間、事象のことだったりする。

京都メトロはそんなように、混み合った地下鉄から放出された人々の【異空間】の様にそこにある。

ぼくは、この場所が、うん、とても、好きだ。

昨夜、うたは帰る場所になりうる時間だった。
間違いなく、帰る場所。
うたが入口であることは、確かだ。
当たり前みたいにぼくもきみも知ってる。

でも、帰る場所になるんだよ。
あなたが帰る場所は、うたの中にある。
昨夜、話したとおり、長い間会いに行けていない家族に会いに行くようなうた。

2012年はじめてのライブを、この場所でできることに喜びと人生の不思議を感じる。

ゆーきゃん呼んでくれてありがと。


(2012/1/9 京都メトロ)
1幸せ
2MY LOST ViRGIN
3死にたい盛りのメロウソング
4young apple
5ひとりにもどろう
6ぼくの愛した女たち
7西調布
8白い部屋
9恋の終わり(新曲)

最終の新幹線で帰る予定だったがイベント自体の時間が相当押していたので、残ることに。

なべちゃん、真平くんたちとラーメンを食いに行く。
たしか東龍という店だったと思う。
やさしい味だった。

その後、打ち上げで龍門へ。
ぼくは調子に乗ってオールフリーをがぶがぶ。
ちょっと大人の気分。
アルコールは摂取せず。
えらいぞ、かねだ。

みんなベロベロになるまで呑んで、くだらない話をたくさんした。
でも、みんなの家族の話がすごく素敵だった。

それぞれの家族がいて
それぞれの家があって
それぞれの関係があって
それぞれの言葉があって
それぞれのいさかいがあって
それぞれの仲直りがあって
それぞれのわだかまりがあって
それぞれのごめんねがあって
それぞれの問題があって
それぞれのありがとうがあって
それぞれの事情があって
それぞれの傾向があって
それぞれの感動が、そこにはあった。

いつの間にか家族の話なんかするようになんかなったんだな。

そういえば今日来てくれたお客さんの男の子が「成人式だったんです。」って言ってた。

成人式終わったあとに、こうやってライブに来てくれるのすっごく嬉しい。
でもちゃんと終電で帰れたかな。
今日ばっかりは帰って、母親に、父親に、兄弟に、家族にありがとうを言わなきゃいけない日なんだよ。

ぼくは成人式の日にありがとうなんて、言えなかったから。
いま、このブログを読んでる人で成人のあなた。
まだ間に合うよ。
ありがとうって言わなきゃね。

話を打ち上げ会場に戻す。

店を出ると、超酒豪のゆーきゃんが足元ふらついてたみたい。
あの人メトロの時点で11杯呑んでたんだよ。
馬鹿みたい。
やっぱり昨夜は良い夜だったってことなんだな。

みんなと別れて京都駅までタクシーに乗る。
運転手さんとゆっくり話す。

彼は生まれた街である地元熊本を出て、東京に会社を立てた。
けれどじきに倒産。
同時に妻とは離婚。
すべてを一からやり直すために京都に二ヶ月前に来たと言っていた。

タクシーの運転手の作り話だと笑うやつは、笑えばいい。
最悪、彼の話が嘘だとしても、それがなんだろうか。

ぼくは「本当に一からやり直せるんですか?」と聞いた。
彼は「ええ。」と答えた。

「ぼくもですか?」
「ええ。もちろんです。」

京都駅新幹線口。
冬の夜は長い。
まだまだ真っ黒に朝を夜は包み込んでいる。

声を聞きたいな。って思った。
そんなのはもしかしたらすごく、すごく、久しぶりだったかもしれない。
一からやり直せるって彼が言うんだもの。

珈琲が無性に飲みたくなったので、少し街を歩いてみる。
京都には早朝喫茶ってものがあるって聞いてたから、もしかしてと思って。
冬の身を切る寒さの中、15分くらい歩いて、ぽつんと赤いライトを見つけた。

【コーヒー&オムライス ポコ】という店だった。
中に入るとジブリ映画に出てきそうな長い髭を蓄えたおじいさんがひとり。
カウンターは六席。
テーブルは三つ。

一番奥の席に座り、珈琲とトーストのセットを頼む。
450円。

幻みたいな店だった。
おじいさんがこちらに水とおしぼりと珈琲とトーストを持ってくる、その歩幅と速度とテンポはまるで物凄い速さで走っているが故に止まって見えるような。
スローモーションの世界。
幻みたいな店だった。

始発の時間になり京都駅へ。

「おおきに。」
おじいさんの言葉が背を押す。
ぼくは、また猛然と生きなければ殺されてしまう社会の中に戻るのだ。

新幹線11番ホーム。
4号車12番E席。
のぞみ300号。
東京行き。

「ギターをトランクにお預かりします。」
「はい。お願いします。」
「ギター?ですか。音楽をやられているんですか?」
「はい。昨夜は東京から演奏しにきたんです。」
「これは、失礼しました。プロの方でしたか。」
「はい。そうです。」

運転手さん、ぼくはプロのミュージシャンです。

K.K