星影のワルツ

9月28日。
新宿LOFTでライブだった。
この日は二年ぶりにビンテージロックと、一年ぶりに新宿LOFTと仕事をした。
お互い持てる力のすべてを尽くしたと思っている。
来てくれた皆さんも同じだ。
感謝しています。ありがとう。

その日は前日がツネの誕生日だったもので打ち上げは誕生会に様変わり。
俺たちは彼にコーヒーメーカーをあげた。
とても喜んでくれた。
俺たちはその姿を見たかったものだから、とてもとても幸せだった。
誕生日おめでとう。
27年の苦節を俺たちは知っている。

その後の急な電話から、今日この日までは一瞬のものであり、一生のように長く感じる。
分かっていたはずだ、なだらかなように見える毎日は、急勾配の坂を突如迎えるってことくらい。

祖父は強く、寛大な人であった。
俺はそれを残したい。
俺はずっと昔から、「残す」ために歌っている。

その時代、金田康平に何があったのか。
何を感じたのか。
何を手に入れ、何を失くしたのか。

きっといつか、また世紀が変わって、ここにいる俺たちがいなくなったころには、誰もが忘れてしまうことだ。
知っている者は存在しなくなる時がくる。
だから、俺はここに、言葉に、歌に残しておく。

俺もいつか死に、あなたもいつか死ぬ。
俺が愛する人は余すところなく、死ぬ。

それでも、死んでも、今でも祖父を死ぬほど愛している。




【星影のワルツ】

ライブが終わって恋人とはしゃいでた
今日はギターも壊れたりさんざんだったけど
このコのことを歌うのならなんでも出来る気がしたし
ライブ後たった数分後でも何時間でも歌える

母からの電話は突然だったんだ
言葉は全然でないのに頭の中はクリアで
今日のライブは最高だったよな
メンバー/主催者/タイバン/恋人に語りかける

楽屋で座り込んだぼくの手を恋人が力強く
握って言ったんだ
「さあはやく、帰ろう」
電車の中 死んだ目をした若者たちが生きてる
死んだ目をしてるのにぼくたちは生きているんだよ

一生かかっても果たせない約束があって
それをあの人は簡単に天気のせいにする
だからきっと うん そうなんだろう
約束はきっとぼくたちにはなんにもなかったんだろう

駅についてぼくは釣り人に呼びかけられた
小学校の夏休み 長靴の底が染みる感じ
東京とは思えないくらい星と月が綺麗だった
煙草の煙のような白い雲がかかっていた

おれはあの雲の正体を本当は知っている
だってあの人キャスターロング無しじゃ生きれないから
四分の一になった肺を「真っ黒だ。」と医者は言う
ぼくは違うと思うんだ あの人は真っ白だ

真っ白過ぎたあの人には
生きにくい世の中だったかも
昔見たエアロスミスよりも百万倍かっこいいよ
ぼくはぼくの世界の尺度を未だ測れていないんだ
なのにあの人は数学もできないのに全部知っていた気がするんだよ

辿り着いた部屋の中 女の人が髪の毛を洗っていてくれた
どこまでも真っ白な
まだ背中はあったかい
あったかい
そりゃそうだあったかい人だから

着替える前にぼくが体を拭いてあげた
こんな熱いタオルじゃ火傷しないか心配だった
あの人は全然熱がらなかった
そりゃそうだ我慢強い人だったもの

よく一緒に散歩をしたよな そう言えば
柳瀬川 黒目川 遠くにも行ったんだ
誰よりも早いスピードで歩いていた
背中が小さくなるほど物凄いスピードで

一生かかっても手に入れられないものがあって
それをあの人はひとつも欲しがらなかった
だからきっと うん そうなんだろう
幸せはきっと誰もが生まれ持ってるんだろう

次の日 あの人の体は冷たくて
まるで氷のように固くなっていた
でもぼくは知っている
心臓は燃えている
音のなき焚き火を目の前で見ている

誰もさよならを言わなかったのに
別れを告げる日がやっぱりくるんだ
誰もさよならを言えなかったからこそ
別れを告げる日が訪れることになってる

一生かかっても言えない言葉ってのがそれで
それをあの人はさらりと言ってしまう人だった
だからきっと うん そうなんだろう
さよならはきっと幸せになるための言葉なんだろう

一生かかっても手に入れられないものがあって
それをあの人はひとつも欲しがらなかった
だからきっと うん そうなんだろう
幸せはきっと誰もが生まれ持ってるんだろう