びんぼう

2200円のホテルは想像していたよりも快適だった。
昨夜の名古屋公演後、メンバーはバンドワゴンで東京へ。
ぼくはプロモーション活動のためにひとり名古屋に残った。

名古屋駅太閤口からおよそ10分。
周りに店らしい店がなくなり始めてから、5分といったところだろうか。
そのホテルはしずかな音を立てて、そこにあった。
存在しないことが、存在であるかのような。

朝方、共同便所で顔を洗っていると、隣にはドレッドヘアーを施した旅人風の青年。
自分探し、という言葉を思い出す。
むかしちょっとした流行りだった。

もし彼とそこで会話出来たのなら、もしかしたら親友になったかもしれない。
最近そんなことばかり考える。
街行く人たち全員に話しかけたら、何人とぼくは親友になれるのだろうか。

名古屋駅まで歩いてモーニング。
トーストと珈琲のノーマルタイプに、プラス120円でヨーグルトとサラダとベーコンがついてくる贅沢な方を選ぶ。

本日のコースはFM aichiで生放送から始まる。が、まだあと2時間はある。
携帯をぽちぽちと、鶴舞大須の街にどんなカレー屋やレコード屋があるかを調べる。

そのうちTwitterを開き、雑記(この日記から集中力をなくした文章)を綴る。
140字で文章を書くことに慣れたな、と思う。
むかしは140字が窮屈だった。
「はじめは窮屈に感じていたのに、今では。」
そういうことは、往々にしてある。

長い手紙がぼくの引き出しの中にある。
いつまでも出せないまんまにしてる手紙。
そして長い日記もある。
それは似てるようで違う。
歌は日記だ。

じゃあ本当の言葉はどこにあるんだろう?
それは誰かとの会話なのかもしれない。
ひとり言の中には、本当の言葉はないのかもしれない。

一刻も早く会いたい人がたくさんいて、どこから手をつけていいやらわからない。
でも、当日になると会いたくなくなることも往々にしてある。
面倒くさい、に勝ちたい。

BANANA RECORD名古屋駅店にはじめて行くが、収穫なし。
無駄に知識がつくとよくない。
どの盤も素晴らしかったかもしれないのに。
知識ではなく本能を磨け、馬鹿者よ。

そこから、ラジオ局とCD屋を周り、昼には名古屋らしく味噌カツ
味噌汁とたっぷりのキャベツが添えられたやつ。
ご飯を二杯も食べて、すりごまや辛子をカツに盛る。
人間が、豚になる瞬間。
たまらなく幸せな瞬間。

夕方にすべての行程が終わり、新幹線。
対応の良い金券ショップなんて初めてだった。
それだけで、今日一日ラッキーの積み重ねだったんじゃないかなと思ってしまう。
いや、歌を歌うことで生活できているなんて、ラッキーの積み重ねだよな。
当たり前じゃなかった。

自由席に乗ったけど、喫煙ルームが遠かったので、喫煙車に移動する。
こだまは時代錯誤だから、まだ喫煙車がある。
煙草の煙がたっぷり詰まった車内のムードを肺に吸い込むと、あの味噌カツ屋が創業した昭和22年にタイムスリップしたような気になる。
こんな感じだったのか、なんて想像する。
ひどい眠気の中、ノートを広げて、セットリストをつくる。

いつかやるであろう、現メンバー初のワンマンライブのために。
まだメンバーすらも知らない曲たちをたくさん並べたセットリスト。
俺は今とてもわくわくしてる。



K.K



【今日の新曲】

『びんぼう』

俺たちが眠る頃
誰かは働き出す
夜露とあそんでばっかりの
ゴロツキ坊やたちさ

ボロの革ジャン肩にひっかけて
背広なんて着れたもんじゃない
煙草の灯りで照らす
明日はどんなもんだろう

びんぼう
俺たちはこころ以外
ずうっとびんぼう